大阪池田延長計画に添付された川西付近の計画線図
鉄道院文書「阪鶴鉄道」巻二より (交通博物館所蔵：原図)に基づき作成。
筆者がこの阪鶴鉄道末期に計画された鉄道線のことを知ったのは、 [37]において取り上げられていたことによる。この計画線は、「阪鶴」と名乗り ながら神崎・大阪間の官鉄線乗り入れを余儀なくされ自社路線として持たなかった阪鶴鉄 道が、大阪に直接到達すると共に、池田町や箕面の便を図ることを目的に計画された支線 である。詳細な分析は同論文を参照していただきたいが、ごく大まかにまとめるなら、こ の計画線は貨物中心の（既設）尼崎方面の線と、旅客中心の大阪方面の線とを川西町で分 岐させることを想定していたようである。一旦は免許状下付までたどり着いたにも関わら ず、明治４０年の阪鶴鉄道国有化により中断、免許返上となり結局は日の目を見ることな く計画線で終わったわけであるが、その直後に計画された箕面有馬電気軌道（阪急）の経 路に非常に相似していることは、[37]において指摘されている点である。
同論文中に池田停車場の図面として掲載されている図であるが、実際の大 正期以後の池田駅と配置がかけ離れており（大きな移築は無かったというのが通説）、ま た地形的に既にあった街道や川の間に入りきらないこと、駅正面が街道でなく川と田畑の 方を向いていることなどから原本を調査したところ、池田駅の実測図ではなく、どうも 「甲種停車場はこのように作るべし」という「停車場模範図」（＝原図表題）のようであ る。原図（鉄道院文書「阪鶴鉄道」巻二より）は 大阪池田延長計画線の申請書に添付されたもので、おそらく停車場敷地寸法を示すためだ けに実測図の代用として提出されたものと考えられる。あるいは計画線が実現した暁には これに近い形に改築しようとしていたのかもしれないが、文書からはこれ以上のことを読 み取ることはできない。
既に建設済みの池田停車場の設計図を添付すれば済むところを、このよう な一般図で代用しているとするならば、池田停車場の図面というものが駅建設まもない当 時においても阪鶴鉄道本社には存在していなかったことを暗示しているようである。唯一 の手がかりとして、鉄道院文書「阪鶴鉄道（免許）巻一」の中で明治28年の免許願に添付 されている「工事方法書」によると、「特ニ計画セシ停車場福知山、篠山、伊丹、塚口ノ ４駅ニシテ図面ニ顕ス如シ。其他池田、生瀬、三田、柏原、中山寺、生野ノ６駅ハ伊丹ニ 同シク、広野、藍、古市、谷川、黒井、市島、下竹田ノ７駅ハ塚口ト同一ノ設計ナリ」 （句読点を補った）とあるのだが、肝心の４駅の図面が失われてしまったのか文書中に存 在しない。この文から推測して、池田駅については図面を特に作成せず、伊丹駅の図面を 元に地形に合わせて調節しながら建築したようにも窺われる。筆者の知る限り、池田駅の 配置が分かる図面の最も古いものは、大正末期の能勢 電伊丹延長計画線の図面である。
計画線に話を戻すが、下図のように既存の阪鶴鉄道池田駅に接続すること を想定されていたようである。詳細は下に記すが、計画線は猪名川対岸の池田町より猪名 川を渡り、巡礼街道の南を緩やかな円弧を描くようにして進み、機関庫のあった池田駅東 方にて既設線に合流するようになっていたわけである。既設線と違い猪名川を渡ることに なるので、重い機関車や貨車を支えられるだけの近代的な橋梁を新設する必要があったわ けで、当時既にある程度の実績（武庫川など）があったとはいえ、目論見書の添付資料の 中でも橋梁設計に関する部分がかなりの分量を占めている。
大阪池田延長計画に添付された川西付近の計画線図
鉄道院文書「阪鶴鉄道」巻二より (交通博物館所蔵：原図)に基づき作成。
この図面だけでは方角も不明で、道と用水路の区別すら付けかねるので、 時代的に近いと考えられる明治18年製の官製地形図[2]の上に、主要な街道や小花村 の位置などを手がかりとして、方角と縮尺を調節して重ねあわせてみる（明治44年製の地 形図の方がより時代が近いが、そちらは巡礼街道が直線化された後なので対応が取りにく い）。下図がその結果である。分岐点は池田駅の東方にあった操車場の中心あたりである ことが分かる。
明治前期の鉄道敷設前の地形図に重ねる
さらに現代の地図（再開発前）を重ねてみる。明治時代の地図と現代の地 図とでは誤差もあるかと思われるが、元の図面に描かれた阪鶴鉄道既設線と福知山線とが よく一致することがわかるので、当たらずとも遠からずといったところであろう。計画線 は、今の国道よりもかなり南を通っているようである。（池田方面は、箕面への分岐を計 画していたようで、逆に今の阪急線よりも北寄りになっている[37]。）
さらに再開発前の地形図に重ねる
