「あんなぁ、川のむこうのほう、空き地があっていっぱいええもんが落ち とんねん。見にいけへんか?」
「川って、どこの?」「ザリガニおるやろ・・・」「ああ、踏切の向こう・・・ 」「そんで行ったことないくらい遠い所やねんけど。」「・・・行ってみよか。」
「何探すのん?」「ばりこんや」「ばりこん?」「知らんの。ラジオのば りこん。」
「ああ。」「テレビも落ちとったから、大きいやつあるんちゃうかなあ」 「テレビにばりこん付いてたかなぁ」「おんなじ電波なんやから、そら付いてるやろ」 「そうかなあ、それでもテレビ用とかあるんちゃうのん?」「そんなんかまへん。持って るだけでええことあるで」
・・・
「これ、すごいなぁ。まだ映りそうやな」「そやろ。かめへん、分解してまえ・・・」 「うわっ、こんだけあったらすーぱーへてろだいんでも作れるで」「そんなもんわかるかいな」
「くっ・・・そやけどこれ、取れへんな。こんなかにある思うねんけど」
「ドライバ持ってきたらよかったなぁ」
「今ごろゆうてもおそいわ。・・・あかん、取れるもん一つもあらへん。・ ・・しんど。これ全部かついでくか」
「あほか」
結局獲物は引きちぎった電線一束とチャンネルのツマミだけで二人は家路 についたのであった。
・・・
ようやく踏切までたどりついたのだが、丁度列車が来るところで今まさに 遮断機が下りようとしていた。
「ツいてへんなぁ。渡られへんかった」「貨物とちゃうか。」
その時、びっと警笛を鳴らし、傾いだ赤い物体が轟音と共に近づいてきた。
「あっ、でぇーでぇーごじゅうよんや」「ほんまや」
「...(凝視する)」「あの、赤色で一色に塗ってあるとこがええよな ぁ」
貨物列車はあっという間に通り過ぎ、二人は踏切が開くと共に駆け出して いった。
ばりこんが少年の物となるのにそう時間はかからなかったが、 あの日の機関車が再び少年の中で蘇るのには三十年の時間が必要であった。
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